コラム - 京食の達人

2012年3月2日
Vol.3 「漬物をつける手 未来につなぐ手」

 保存食として先人の知恵から生まれた,京漬物。伝統的な京都の食品として市民の食卓には欠かせません。また,観光旅行者のお土産物としても高い人気を誇ります。
 京都の台所,京都市中央卸売市場第一市場の近くで,昭和2年から85年に渡り,漬物製造業を営む「株式会社中辻商店」。
 今回は,おいしそうな漬物の香りの中,中辻商店専務の中辻正次さんにお話をうかがいました。

○正次さんが漬物造りを始めて何年になりますか?その間に,「日本の食は変わってきたな~」と思うことはありますか?
― 私は,28歳の頃から始めたので,今年で42年になります。私が漬物づくりを始めた頃 は,漬物は保存食の一つとして,ごはんの友として,お茶漬けにしたり,おかずにしたりとよく食べてられていました。30年程前からハウス野菜がたくさん出回り,野菜の旬が分かりにくくなってきました。昔は野菜がとれない時期に漬物を食べていましたが,今はいつでも野菜が手に入るようになりました。保存食としての漬物というよりは,今の漬物は浅漬けが多く,サラダ感覚で食べていることが多いように感じています。

○子ども達に漬物について教えているとお聞きしますが?
 ― 発酵食品である漬物のにおいや味は子どもの頃から慣れていないと食べにくいものです。子どもの頃から食べ慣れておく,経験をさせておくことが大切だと思います。 
 だからこそ,子どもたちに対して工場見学会を開催したり,保健センターの食育セミナーで漬け方を教えたりしています。素材の味,塩漬け後の味,ぬか床自体の味を確かめさせ,1つの経験をさせることを大切にしています。初めてのにおいや味にびっくりはしながらも子どもたちは受け入れてくれます。

 

保健センターのぬか漬づくりでは,おくらの漬物が人気だったとか。

○中辻さんの手,つるつるですね。
― ぬか床を触っているせいでしょうか(笑)。ぬかを触ってかゆくなる人もいますが,長年,漬物を漬けてこの手になりました。

働き者の素敵な手でした(^^)
この優しい手で子どもたちに伝統が伝えられています。 

○京都市民の方や観光旅行者の方へ一言お願いします。
 ― 京都は昔から,京料理とともに漬物が発展してきました。まず,海から離れた土地ということで,魚介類が手に入りにくく,野菜中心の食生活でした。 
 また,京都にはお寺の総本山が多数あり,全国から多くの人の往来がありますので,京都で食べたおいしい野菜の種を持ち帰ったり,逆に持ち込んだりして野菜の種類が豊富になり,京都の土地にあった野菜が発展しました。精進料理に用いられることも野菜作りが盛んになった理由の一つです。
 京漬物は,切り方が工夫された見た目の繊細さ,色鮮やかさなど,手間ひまをかけて作られ,材料となる京野菜の種類が多いため,漬物の種類も豊富です。
 生活習慣病等の関係で塩分が気になる点もありますが,野菜のかさを減らして食べることができますし,食物繊維もとれます。また,漬物は発酵食品ですので,乳酸菌がおなかの調子を整えるという良い点もあります。
 市民の方にも観光旅行者の方にも,京漬物をもっと知って食べていただきたいと思います。

今回の達人

Vol.3 「漬物をつける手 未来につなぐ手」

中辻商店 中辻正次さん

京食の達人

このコラムについて
京都にゆかりの「食の専門家」や「食にまつわる職人さん」からの発信です。
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