コラム - 京食の達人

2012年4月10日
Vol.4 「天然素材から生まれる京漆器(きょうしっき)をあなたの食卓で」 佐藤喜代松商店 代表取締役 佐藤貴彦さん

 椀や箸,行事の料理を入れる重箱など,食卓で使われる漆器だけでなく,さまざまな工芸品にあしらわれる漆。誰もが手に取ったことのあるものだと思います。
 私たち日本人の生活にはなじみが深い漆ですが,漆の歴史や用途,家庭での漆器の取り扱い方法ついては,あまり知らないという方が多いのではないかと思います。
 今回は,大正10年から漆精製販売業を営む佐藤喜代松商店の佐藤貴彦さんに漆について,教えていただきました。

○ズバリ,漆って一体なんですか?

―漆という木の樹液を塗料として利用しているものが私たちの知っている漆です。漆の木に傷を付け,樹液を集め,それを精製し,そのまま又は顔料と混ぜて塗料として利用しています。
 漆の歴史は古く,以前は中国から渡ってきたものと思われていましたが,昔から日本に生育し,縄文時代前期(約9000年前)にはすでに利用されていたことがわかっています。

樹液を採取した後の漆の木

○京漆器とはどのようなものですか?

―全国各地,漆器の産地はたくさんありますが,それぞれ,京都から職人を呼び寄せてはじめたものなんです。もともとはすべて京都から始まっているんですよ。京都は技術的に幅広く,塗りの工程もしっかりしていて,繊細な仕上がりになり,高級品になります。
 また,京漆器は,艶やかな塗り,美しい絵付けが施されたり,お茶席や宮中料理に合わせて古来より使用されてきました。最高ランクの建築や他の食器類などと合わせられる風格をもつもの,それが京漆器だと思っています。
 京料理は漆器などの食器も大変良いものを使っており,料理のみならず,庭,部屋,調度品,周りの雰囲気全体をあわせ,おもてなしをしているということですね。

○漆器の良さとは?

 ―天然の素材からできていること。熱を伝えにくく,軽いこと。口あたりが良いことです。
 食べ物って食器によっておいしさが変わると思いませんか?我が家では汁碗や箸だけでなく飯椀やスプーンにも漆器を使っています。一度使うと手放せなくなりますよ。2歳の息子も使っていますが,落としても少々のことでは割れません。手触りがやさしいので気に入っているようです。
 普通の台所用洗剤とスポンジで洗えますので,慣れてしまえば普段使いの漆器の扱いにはそれほど気を使うことはないと思います。
 それと,漆器は修理しながら長く使えるんですよ。漆器は割れにくいですし,はげたり,かけたりしても何度も塗りなおして修理して長く使えるんですよ。ものを大切にする日本人に長く愛され続けてきたのもうなずけます。安い大量生産品を過剰に消費する時代は終わり,一つのものを大切に使うという精神を子どもたちに知ってもらいたいですね。

漆を塗る前の木地と塗った後の器

  (漆器の湯飲みで飲むお茶は口当たりが優しく,味わいも丸い感じがしました。)

○漆の工芸教室をされているそうですが?

 ―数年前から一般の方が漆を塗りたいと相談に来られるようになり,その都度,手法や注意点を説明していました。そういう方が増えてきたことで,2005年から教室を始めています。本職の職人さんが講師で,蒔絵(まきえ)・螺鈿(らでん)・金継(きんつぎ)・漆器(しっき)修理などなんでも出来ますよ。

漆工芸教室の様子

  (趣味の方や仕事に生かしたいという方が教室に通われているようです。)

○今後,漆の良さをどのように広げようとお考えですか?

 ―塗料としての漆は,今までの弱点を克服しつつ,例えば建築や衣料,小物,付け爪(ネイル)などに広げています。ワイングラスのような洋食器にも塗れるようになってきています。
 また,昔からある「お食いぞめ」※は,正式には漆器が使われるものです。きちんとした漆器を一式揃えると高価になるので,最近はやろうという家庭が少なくなってきています。伝統行事を次世代へ継承していくためにも,若い人が使いたくなるような身近なものから漆器の良さを伝えていきたいと思っています。
 これからも漆ファンを増やしていきたいですね(笑)

 (漆塗りの様子を見て,漆のお話をお聞きして,漆の奥深さを感じました。漆ファンに近づいた気持ちです(^0^)/ 飯椀にも,漆器を使ってみようと思います!)

※「お食いぞめ」・・・生まれて100日目の赤ちゃんに,食事を食べさせるまねをする儀 式 。将来食べることに困らないように願って行う。男の子は朱,女の子は黒の漆器を 使う。

今回の達人

Vol.4 「天然素材から生まれる京漆器(きょうしっき)をあなたの食卓で」 佐藤喜代松商店 代表取締役 佐藤貴彦さん

佐藤喜代松商店 代表取締役 佐藤貴彦さん

京食の達人

このコラムについて
京都にゆかりの「食の専門家」や「食にまつわる職人さん」からの発信です。
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