食の安全・安心情報
「食中毒」とは,病原微生物や有害,有毒な物質を含む食品(食物)を摂取した結果起こる衛生上の危害をいい,多くの場合は,胃腸炎症状(嘔吐,腹痛,下痢など)を呈します。
食中毒の種類はその原因によって「微生物」,「化学物質」,「自然毒」及び「寄生虫」の4種類に大別され,その内容をまとめると次のようになります。
腸炎ビブリオは海水中や海泥中に存在し,海水温度が20°C以上,最低気温が15°C以上になると海水中で大量に増殖し,魚介類に付着して陸上に運ばれます。
したがって,この菌による食中毒事故は7月から10月の夏期に集中しています。
魚介類の刺身やその加工品が代表的ですが,魚を流水で洗っていたそばにあった野菜が汚染され,一夜漬けが原因食品となるケースや,生の魚介類を調理した後の調理器具や手指などを介してこの菌に汚染されることもあります。
平均12時間
腹痛,激しい下痢,吐き気,嘔吐,発熱
●真水で洗う
腸炎ビブリオは海水と同じ塩分濃度でよく発育,増殖します。したがって,海
産の魚介類を調理する前には真水(水道水)でよく洗います。
●わずかな時間でも冷蔵する
腸炎ビブリオは一般の細菌と比べて,3~5倍の速さで増殖します。生鮮魚介
類を保存する場合は,わずかな時間でも冷蔵するように心がけましょう。
また,お刺身など生食用の魚介類は4°C以下で冷蔵保存し,冷蔵庫から出した
後は,2時間以内に消費されるよう提供しましょう。
下痢原性大腸菌(広義の病原大腸菌)は,健康な人や動物の腸管内に存在する大腸菌のうち,病原性を有する菌をいい,次の5つに分けられます。
●腸管病原性大腸菌
小腸に感染して腸炎などを起こします。
●腸管侵入性大腸菌
大腸(結腸)粘膜上皮細胞に侵入・増殖し,粘膜固有層にびら
んと潰瘍を形成し,赤痢様の症状を引き起こします。
●毒素原性大腸菌
小腸上部に感染し,コレラ様のエンテロトキシンを産生し,
腹痛と水様性の下痢を引き起こします。
●腸管出血性大腸菌(ベロ毒素産生性大腸菌,志賀毒素産生性大腸菌)
赤痢菌が産生する志賀毒素類似のべ口毒素を産生し,激しい腹痛,水様性の下痢,血便を特徴とし,特に,小児や老人では,溶血性尿毒症症候群(HUS)や脳症(けいれんや意識障害など)を引き起こしやすいので,注意が必要です。
●腸管集合性大腸菌
腸管の粘膜上皮細胞に付着し,毒素を産生して下痢を引き起
こします。
この菌は便による二次汚染により,あらゆる食品及び水が原因となる可能性があります。
また,場合によっては手指を介しても伝播することもあります。
12~72時間(菌の種類によって異なる)
下痢,血便,激しい腹痛,吐き気,嘔吐の他,かぜに類似した悪寒や上気道症状など。(場合によっては重篤な状態に陥ることもあります。)
●食品の加熱調理を十分に行うこと,加熱調理済食品の二次汚染を防ぐこと,使用水の安全を確認することなどが考えられます。
●食肉(生レバーを含む。)の生食はやめましょう。
●生肉を触った箸や食器は共用せず,手で触れた場合は手洗いを十分に行うこと。
サルモネラは鶏,豚,牛,ペットなどの動物が保菌しています。
サルモネラが付着した肉や卵を原材料として使用した場合や調理済食品が汚染された場合などが食中毒を引き起こす原因と考えられます。肉・卵の鮮度の点検や,保存の際に他の食品を汚染しないよう注意しましょう。
レバー刺身,卵焼き,自家製マヨネーズ,ローストチキン,うなぎ,食肉や卵など
8~48時間(菌の種類によって異なる)
悪心,腹痛,下痢,嘔吐,発熱
●レバー刺身などは,肉の生食は避ける。
●調理の際は食品の中心部まで十分に火が通るよう加熱する。
●卵は新鮮なものを購入し,必ず冷蔵庫で保存する。
●卵を使う場合は,割卵後すぐに,十分加熱調理し,2時間以内に食べる。
黄色ブドウ球菌は化膿したところ,おでき,水虫,にきび,喉や鼻の中,皮膚,毛髪などに常在しており,健康な人でも保菌しています。
この菌は食品の中で増殖するとき毒素(28~30℃では数時間で毒素が産生)をつくり,この毒素が人に危害を及ぼします。毒素は耐熱性で100℃,30分の加熱条件でも分解されません。
黄色ブドウ球菌の発生至適温度は32~37°Cですが,7~46°Cでも増殖は可能です。
しかし,この菌自体は熱に弱いので,十分に加熱すれば死滅します。
手指などから食品を汚染する機会が多いため,あらゆる食品が原因食品となる可能性があります。特におにぎり(にぎりめし)が多く,その他や弁当,和菓子などが原因食品となります。
1~5時間(平均3時間)
吐き気,嘔吐,腹痛,(下痢)
●食品を10°C以下で保存し,菌の増殖を抑える。
●調理にはマスクや帽子を着用し,作業中はこまめに手指を洗浄消毒する。
●手指などに化膿創がある場合は食品に直接触ったり,調理をしない。
●作り置きせず,早く食べる
家畜,家禽又はペットの腸管内に存在します。
鶏のささみ,バーベキュー,焼き肉など,肉の生食や加熱不足によることが多く,サラダや未殺菌の飲料水なども原因となる場合があります。
平均2~3日と長い
腹痛,激しい下痢,発熱,嘔吐,筋肉痛
●生肉を冷蔵庫で保存するときは容器に入れて,ほかの食品に接触させない。
●生肉を調理するときは,十分に加熱する。
●肉の刺身(特に鶏)等,生肉は食べない。
●この菌は乾燥に弱いので,調理器具などは熱湯で消毒した後,よく乾燥させる。
●ペットなどの動物に触った後は手を洗浄し,糞は衛生的にきちんと始末する。
ウェルシュ菌はもともとは土壌細菌で,人や動物の腸管にも高率よく存在します。
この菌は芽胞という殼をつくるので,100°C,4時間以上の加熱でも死滅しないことがあります。また,嫌気性菌であるため,食品を大量に調理して釜の中が酸欠状態になり,食品の温度が発育温度域にまで下がると,芽胞が発芽して,急激に増殖します。
したがって,「加熱済のものは安全」という常識はこの菌にはあてはまりません。
大量に調理加熱されたカレー,シチュー,めんつゆなどで,特に前日又はそれ以前に調理された食品に多くみられます。
8~12時間
下痢,腹痛 通常は軽症で1日で回復
前日調理は避けること。
一度に大量の食品を調理加熱した場合は小分けして,急速に冷却する。
セレウス菌は土壌,ほこり,水中など自然界に広範囲に分布する菌で,穀類,豆類,香辛料などから高率に検出されます。この菌も耐熱性の芽胞をつくりますが,ウェルシュ菌などとは異なり,酸素のある条件でもよく繁殖します。
セレウス菌の中には嘔吐毒を産生するものと下痢毒を産生するものがあります。
食中毒として報告があるもののほとんどが嘔吐毒によるもので,この毒は熱に強く,食前に加熱しても失活しないため,食中毒を引き起こします。
チャーハン,スパゲティーの麺,やきそば,オムライスなど
嘔吐型は1~5時間 下痢型は8~15時間
嘔吐型は黄色ブドウ球菌食中毒に類似 下痢型はウェルシュ菌食中毒に類似
炊きあげたご飯やゆでたスパゲティーの放冷の際は細菌の汚染を防止するため開放せず,速やかに温度を下げて,菌を増殖させない。
大きさは約30nmで,食中毒菌等の細菌の約30分の1程度と非常に小さなものです。
また,細菌のように食品に付着して増殖するのではなく,ヒトの小腸粘膜で増殖し,感染性回腸炎や食中毒を引き起こします。
12~48時間
下痢,嘔気,嘔吐,腹痛,発熱(38°C以下)など,風邪に似た症状。
症状は12~60時間持続して,通常2,3日で軽快
(10~100個の少ないウイルス量でも発症します。)
2~3月にかけての冬季に,カキを原因とするノロウイルスの食中毒が多発します。
●カキなどの二枚貝は,十分加熱調理してから食べる。(中心温度85℃1分以上)
●手指の洗浄消毒をする。
●施設や調理器具等の消毒をする。
調理台等は200ppmの次亜塩素酸ナトリウムで拭き,
調理器具やふきん等は85℃1分以上で加熱殺菌する。
●汚物,糞便の処理を行う場合には,手袋やマスクを着用しましょう。
●汚物,糞便を片付けときは,使い捨てのペーパータオル等を用い,吐物等で汚れた床は,1000ppmの次亜塩素酸ナトリウムを含ませたペーパータオル等で被い,しばらく放置して消毒しましょう。
●吐物等の処理を行った後は,石けんで十分手を洗うとともに,うがいをしましょう。
▼次亜塩素酸ナトリウムとは?
塩素系漂白剤の成分です。ノロウイルスの消毒に効果があります。
金属を腐食させるため,金属部分に使用した場合は,10分程度たったら水拭きしてください。また,手指の消毒には使えません。
また,消毒する際,他の洗浄剤等と混ざると塩素ガスが発生することがあるので,使用時は十分に喚気してください。
▼次亜塩素酸ナトリウムの希釈方法
水道水と次亜塩素酸ナトリウム(ハイター,ミルトン,ピューラックス等)を,次表の分量で混和します。(500mL のペットボトルを利用すると作りやすいです。)
次亜塩素酸ナトリウムの希釈方法 | |||
---|---|---|---|
消毒対象物 | 塩素濃度 | 水道水 | 次亜塩素酸ナトリウム(塩素濃度5%) |
汚染箇所・物品 | 0.1% | 500mL | 10mL(キャップ2杯) |
非汚染箇所・物品 | 0.02% | 500mL | 2.5mL(キャップ半杯) |